以前、商売をしていた我が家では、お客さんが中に入ってきやすいようにするためと、商売のためにショーウィンドウを置かなくてはならなかったことから、引き戸の玄関でした。
同じ鍵ですが、3か所施錠できるようになっていて、夜には父手作りの心張棒を扉と柱の間にがっちりとはめ込んでいたので、まず中に入られる心配はありませんでした。
そんな商売も、近くのスーパーマーケットやドラッグストアが同じ商品を販売し始め、あるいは24時間営業のコンビニエンスストアでも売り始めたため、個人商店はわざわざ足を運んでくれる人もなくなって、売上はほとんどない状態になってきました。
そこへ持ってきて、父の物忘れの症状がひどくなってきて、つり銭を間違えることが多くなったため、もう店を閉めようということになりました。
店だったスペースは、玄関と、ちょっとした来客を迎えられる部屋に改装することになりました。
それまで引き戸でしたが、今度はスペースの問題上、ドアになりました。
長年引き戸での出入りでしたので、出来上がったときには新鮮な気分になったものです。
鍵は全部で5本ついていて、4人家族でそれぞれ一つずつ持つことにし、後の一つは嫁いだ姉に渡しました。
そのとき、一番不安を感じたのは検査の結果、認知症と診断された父でした。
前の鍵を処分しなければならないのに、いつまでも大事に持っていたことから、新しい鍵との区別がつかず、イライラしていました。
前の鍵を回収し、新しい鍵をいつもつけている小銭入れにつけると落ち着きましたが、いつか鍵の交換をしなければならない事態が起こるとしたら、父が紛失する可能性が大かもしれないと思いました。
従姉妹に、キーケースに鍵を何もかもつけていて、そのキーケースをバイクにつけっぱなしにして忘れて離れてしまったために、バイクごと盗まれたことがあります。
そのとき、玄関ドアの鍵だけの交換ができなかった叔父の家では、ドアにスクランブルロックキーをとりつけることで何とかしのいでいます。
我が家のドアは、鍵をなくしたらどうやって交換するのだろうと、父の言動が怪しくなるたびに心配しています。